ホリショウのあれこれ文筆庫

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第816話 十字軍の実態

序文・聖戦

                               堀口尚次

 

 十字軍とは、中世に西欧カトリック諸国が聖地エルサレムイスラム諸国から奪還することを目的に派遣した遠征軍のことである。

 一般には、上記のキリスト教勢力による対イスラム遠征軍を指すが、キリスト教異端に対する遠征軍〈アルビジョア十字軍〉や北欧や東欧の非キリスト教圏に対する征服戦争〈北方十字軍〉などにも「十字軍」の名称は使われている。

実態は必ずしも「キリスト教」の大義名分に当て嵌(は)まるものではなく、中東に既にあった諸教会〈正教会東方諸教会〉の教区が否定されてカトリック教会の教区が各十字軍の侵攻後に設置されたほか、第4回十字軍や北方十字軍などでは、正教会も敵として遠征の対象となっている。また、目的地も必ずしもエルサレム周辺であるとは限らず、第4回以降はイスラム最大勢力であるエジプトを目的とするものが多くなり、最後の十字軍とされることもある第8回十字軍は北アフリカチュニスを標的としている。

 西欧においては、十字軍は西欧が初めて団結して共通の神聖な目標に取り組んだ「聖戦」であり、その輝かしいイメージの影響力は後日まで使われた。後の北方や東方の異民族・異教徒に対する戦争ほか、植民地戦争などキリスト教圏を拡大する戦いは十字軍になぞらえられた。また異国への遠征や大きな戦争の際には、それが苦難に満ちていても、意義ある戦いとして「十字軍」になぞらえられた。

 西洋では17世紀以降、戦争を伴わない宗教的な運動をも「十字軍」と呼ぶようになり、以来さらに使われる範囲が拡大し、英米では「正義の味方」と言う意味の単語としてcrusade〈クルセイド〉と言う語を用いる。

 2001年のアメリカ大規模テロ事件では、ブッシュ米大統領が「this crusade, this war on terrorism〈これは十字軍だ、これはテロリズムとの戦争だ〉」と発言し、イスラム教の反発を受け撤回した。しかし、ブッシュ政権によるアフガニスタン侵攻、イラク侵攻を「第十次十字軍」と呼ぶ者もあった。因みに、クルセイダー 、および複数形のクルセイダーズ は、スペイン語で「十字架をつけた集団」という意味を持つ言葉で、転じて十字軍を意味する。同義の英語クルセイドより転じて「社会活動家」を意味する語でもある。