ホリショウのあれこれ文筆庫

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第888話 腐ったリンゴ

序文・腐敗の伝染

                               堀口尚次

 

 腐ったリンゴ とは、集団内における腐敗した人物、または邪悪な人物からの悪影響を指すメタファー〈比喩〉である。この概念は、時代の流れに伴い「少数の腐ったリンゴ」が集団の残りの大多数を代表しないことを指す、元来とは逆の意味で使われている。また、後者の用例は、アメリカ合衆国における警察不祥事へ触れる文脈で散見される。

 リンゴの腐敗が周囲に及ぼす影響には科学的根拠が存在する。腐ったリンゴはエチレンガスを生成し老化を早め、他のリンゴのエチレンの生成を増加させるという相互作用が発生する。結果として追熟が急速に進み、周囲のリンゴの腐敗を招く現象が起こる。

 日本では「腐ったミカン」という表現を用いることが多い。昭和55年~昭和56年に放送されたテレビドラマ『3年B組金八先生第2シリーズ』で転校生加藤優のエピソードで、不良生徒の悪影響を例えて言った言葉である。同じ箱の中に一つの「腐ったミカン」があると、他のミカンにも腐敗が広まることから、学校のクラスの中に不良生徒が一人居るとクラス全体に悪影響を与えることを「腐ったミカン」という表現が用いられ、同ドラマの影響で日本では「腐ったミカン」の表現が定着した。

 2019年には、学校法人追手門学院が2016年に開いた職員研修において外部コンサルタント会社の講師が受講者に過剰に厳しい言葉を浴びせたことで退職者、休職者が出た問題で、人格を否定するような言葉の一例として「腐ったミカン」が使われていたことが報じられた。

 2020年、Fortniteを運営するEpic Gamesのツイッター日本語版公式アカウントは、アプリ内課金の手数料を巡って対立していたAppleのことを「腐ったリンゴ」と表現した。

 仏教の法句経『ダーナヴァルガ』にも類似の一節がある。「それ故に、賢者は、自分は、果物籠が〈中にいれる果物に〉影響されるようなものであるということわりを見て、悪人と交るな。善人と交れ。」