ホリショウのあれこれ文筆庫

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第473話 伝家の宝刀・指揮権発動

序文・検事総長法務大臣の権限

                               堀口尚次

 

 指揮権とは、法務大臣が検察官を指揮すること。検察庁は行政機関であり、国家公務員法の規定に基づき、その最高の長である法務大臣は、当然に各検察官に対して指揮命令ができるのであるが、この指揮権については検察庁法により「検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。」として、具体的事案については検事総長を通じてのみ指揮ができるとした。一般的に法務大臣の指揮権とは、個々の事件について検事総長を指揮することを指す

 検察官は、例外を除き起訴権限を独占する〈国家訴追主義〉という極めて強大な権限を有し、刑事司法に大きな影響を及ぼしているため、政治的な圧力を不当に受けないように、ある程度の独立性が認められている。検察官はそれぞれが検察権を行使する独任官庁であるが、検察官は刑事裁判における訴追官として審級を通じた意思統一が必要であることから、検察官は検事総長を頂点とした指揮命令系統に服する〈検察官同一体の原則〉。そのため、法務大臣から個別事件について指揮を受けた検事総長は検察官同一体の原則によって、下位の検察官に対して影響を及ぼすものとされる。

 指揮権発動が疑われたり、可能性が考慮された例として以下の事案がある。 2010年、柳田稔法務大臣の在任中に尖閣諸島中国漁船衝突事件那覇地検公務執行妨害罪で身柄拘束中の船長を処分保留で釈放された〈当時の検事総長は大林宏〉。那覇地検の釈放理由に「今後の日中関係を考慮する」とあったため、政治判断による指揮権発動が疑われたが、柳田は釈放は検察の判断であり報告を受けた時に検察の判断を尊重したとし、指揮権発動を否定した。しかしそれから3年後の2013年9月19日、事件当時の内閣官房長官であった仙谷由人時事通信社のインタビューに答え、自身が法務事務次官に対して船長釈放の要望を実質上は出していたこと、釈放決定前に外務省幹部を那覇地検へ派遣したこと、またそれらに関しては、2010年11月に日本での開催が予定されていたAPEC首脳会議に際し中国首脳の来日拒否を恐れた事件当時の内閣総理大臣菅直人の「解決を急げ」との指示があったことを明言した。