ホリショウのあれこれ文筆庫

歴史その他、気になった案件を綴ってみました。

第987話 無主地

序文・領土問題

                               堀口尚次

 

 無主地(むしゅち)とは、所有者の定まっていない土地のことである。主に国際法と日本史の分野で用いられるが、その土地に対する法律などは大変複雑である。

 国際法における無主地は、どの国にも領有されていない土地を指す。国際法には「無主地先占」という概念があり、他の国家に属していない土地を自分の領土として編入することが領有取得のあり方として認められている。20世紀までに地球上のほとんどの土地は、いずれかの国家によって領有が宣言されているが、下記の事情から21世紀に入っても複数の土地が無主地であり続けている。

 ①国境線の場所を巡る問題の影響から領有を宣言する国家が存在しなくなった土地。〈エジプトとスーダンの国境地帯・クロアチアセルビアの国境地帯〉②国際条約によって国家の領有権に制約がかけられた土地。〈南極・地球以外の天体〉

 日本史における無主地は、特定の領主あるいは年貢負担者の定まらない土地を指す。

 日本においては元々律令法において口分田(くぶんでん)〈民衆へ一律に支給された農地〉や寺田・神田のような国家で耕作者・占有者が定められた公田や墾田のような市田と対立する概念であった。

 代表的なものとして公私共利の地とされた未開発地である山野河海〈山川藪沢〉や乗田(じょうでん)・無主位田〈支給者が決定されていない位田(いでん)〉・荒廃田など、開発地でも実際の耕作者がいない土地などが挙げられる。後者については国司が耕作者を募集して地子(じし)〈地代〉を徴収した。11世紀に入って荘園の開発が盛んになると、人の手が加わっていない山野河海の多くが荘園の四至(しいし)〈所領・土地の東西南北の境界〉に組み入られるようになった。

 中世に入ると、貞応2年に山野河海の得分は領家と地頭の折半にする幕府法が導入され、荘園等への編入が一層進んだが、未開発の山野河海部分は荘民の伐木・採草・放牧などの用益が許されていた。また、峠や河原、中州など開発が困難な土地〈災害などのリスクの高い土地を含む〉には市が形成され、中世都市の原形になる場合もあった。