ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1261話 ケンカ祭りこと乙川祭禮

序文・祭りは神事

                               堀口尚次

 

 乙川祭禮は、愛知県半田市乙川地区で毎年3月第3日曜日と、前日の土曜日に行われる乙川八幡社〈乙川八幡宮・入水上神社とも呼ばれる〉の祭礼である。坂上」と呼ばれる神社への引き込みの様子が荒々しいことから、ケンカ祭の異名をとる。また、県内の山車行事の先陣を切ることから、地元テレビ局や新聞などでは、春の風物詩として取り上げられることもある。古文書や、宝暦5年の「乙川村祭禮絵巻」に描かれていることなどから、宝暦年間以前から伝わっているとされる。

 祭礼にかかわる人材は、山車組ごとの血縁者によって構成されている。 組織は亀崎同様、女人禁制であるが、観光客や女性でも、先綱を引いて参加することができる。なお、半田市近辺では、山車をさす言葉として御車が一般的であるが、乙川地区においては、「山車」、もしくは「軕」〈車偏に「山」の国字〉の表記で「ヤマ」と読む。

 ところが2024年12月の中日新聞知多版に『「乙川祭り〉暴力なくすには 山車から離れて殴る、蹴る。半田署員らと地区役員話し合い』という記事がでた。交流サイト〈SNS〉やテレビで放送されてから「暴力ではないか」との声が上がり始めているという。警察関係者と祭り地区の役員らが会合をもち解決方法を探った。役員らからは、一番かじを奪い合う本来の目的から逸脱している現状を認めたが、「坂上中のケンカ」は継続したいといった意見もでた。ただしケンカが原因で祭りに出たがらない子供も多く、年々祭りへの参加人数は減少しているのが現状だという。八幡社の宮司は「乙川地区の子どもは我々で守ろう。子どもが参加できる祭りにしていこう」と呼びかけている。

 昔からの有名な祭りには、荒々しい男たちの激しいぶつかり合いを含むものは、全国に沢山あると思う。中には、けが人どころか死者もでる大変危険な祭りも中には存在する。しかし神事としての「ぶつかり合い」と「暴力」は峻別されななければならない。「祭り〈神事〉」に警察が介入してきたのでは、民事不介入どころか「信仰への介入」になってしまうのではないか。

 「祭り」が「神事」であることを再認識し、穢れのない運用ができるようにしてもらいたい。このことを徹底しない限り、近い将来「祭り」が消えてしまうのではないか。今回の新聞記事はそのことへの警鐘に思えてならない。