ホリショウのあれこれ文筆庫

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第251話 内大臣と侍従長の違い

序文・再び廃止された内大臣

                               堀口尚次

 

 内(ない)大臣府は、明治中頃から戦前昭和にかけて日本に存在した制外官〈省庁の様なもの〉の一つ。宮中にあって天皇を常侍(じょうじ)輔弼(ほひつ)〈常に補佐〉し、宮廷の文書事務などを所管した内大臣を支える機関として明治18年に設立され、敗戦直後の昭和20年に廃止された。

 明治政府が太政官制を改め内閣制度を発足させた折、内閣を構成し国務を司る国務大臣内閣総理大臣を含む〉とは別に、明治維新時に廃止された内大臣を宮中の大臣職として復活させた。

 明治政府下における内大臣は、親任官〈官僚の最高位〉である宮内(くない)大臣・侍従長(じじゅうちょう)とともに、常に天皇の側にあって補佐〈常侍輔弼〉する官職であった。具体的には、御璽(ぎょじ)〈天皇の印章〉・国璽(こくじ)〈国家の表徴として押す印〉を保管し、詔勅(しょうちょく)〈天皇の御言葉〉・勅書(ちょくしょ)〈天皇の命令文〉その他宮廷の文書に関する事務などを所管した。また、国民より天皇に奉呈(ほうてい)〈謹んで差し上げる〉する請願(せいがん)を取り継ぎ、聖旨(せいし)〈天皇の思し召し〉に従ってこれを処理するなど、側近としても重要な役割を果たした。

 その職務や権限、天皇に助言できる範囲は、憲法学者ですら明確に定義することができないほど、非常に曖昧かつ抽象的であった。全ては天皇と就任した人物との信頼関係のみで成立するという、特殊な官職でもあった。

 一方、侍従長(じじゅうちょう)とは、現在も存在する宮内庁侍従職の職員の長官。国家公務員法施行以降も、侍従は同法の適用を受けない特別職とされると同時に認証官でもあり、その任免は天皇により認証される。侍従長認証官ではない指定職の宮内庁次長よりも格上である。〈宮内庁に長官はいるが事務次官はいない〉

 戦前の侍従長は、内大臣に近い仕事をし、権限を有していたようであり更にややこしいのが宮内大臣〈現在の宮内省・旧宮内省の長官〉も存在し、組織的には侍従長内大臣よりも上の立場にあった。しかし、実際の天皇の近くにいたのは、侍従長であり内大臣であった。

 最近になって第二次世界大戦開戦当時の侍従長だった人の日記が公開され、昭和天皇が開戦を決断した時の様子が、手に取るようにわかってきたのだ。更に当時の内大臣だった人の回想録も現存しており、徐々にではあるが、それらを総合して、昭和天皇の当時の心中や葛藤が、垣間見える様になってきた。

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