ホリショウのあれこれ文筆庫

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第313話 映画「ひまわり」とウクライナ

序文・繰り返されるウクライナの悲劇

                               堀口尚次

 

 映画「ひまわり」は1970年公開のイタリア・フランス・ソビエト連邦アメリカ合衆国の合作映画。戦争によって引き裂かれた夫婦の行く末を悲哀たっぷりに描いた作品で、エンディングでの地平線にまで及ぶ画面一面のひまわり畑が評判となった。 ロケ地となったひまわり畑はソビエト連邦時代のウクライナの首都キエフから南へ500キロメートルほど行ったヘルソン州にあるとされているが、NHKの現地取材ではポルタヴァ州のチェルニチー・ヤール村で行われたと特定されている。

  映画の中で、戦争で生き別れた夫を探しに、ソ連ウクライナ地区の広大なひまわり畑を訪ねた主人公は、地元の女性から「ここにはイタリア兵とロシア人捕虜が埋まっています。ドイツ軍の命令で穴まで掘らされて・・・ご覧なさい、ひまわりやどの木の下にも麦畑にもイタリア兵やロシアの捕虜が埋まっています。そして無数のロシア農民も老人 女 子ども」と告げられる。

 この映画では、イタリア人の夫婦の話になっているが、ジベリア抑留兵となってソ連に強制連行された日本人にも同様の悲劇があったという。戦争により死亡した場合も勿論悲劇なのだが、出征したまま帰らずに〈死亡通知もなく〉生きているのかどうなのかが不明な場合が最大の悲劇を生むことになる。

 この映画は、戦争がもたらす悲惨さを、ごく日常の夫婦愛を通じて描き切っている。生死の淵を彷徨い、生還したイタリア兵が見たものは、生きる喜びであり、救ってくれたロシア人〈ウクライナ人?〉女性への深い愛情だったに違いない。しかし過度の凍傷により記憶喪失となったイタリア人男性の更なる悲劇は、自分を探しに来た元妻のイタリア人女性〈映画の主人公〉との再会であった。記憶喪失のはずだが、再会の時点では記憶が蘇ってくる表情が演出されていた。戦争とは、人が死ぬこと以外にも、こんなにも惨い悲劇を生みだす。

 そして今、この映画の舞台となったウクライナで、また戦争が繰り返されている。ロシアの侵攻により、軍人は元より民間人〈女性や子供も〉にまで被害が及んでいる。勿論抵抗するウクライナ人でロシアの捕虜となった兵士にも映画と同様の悲劇が生まれるかも知れない。映画は戦争により引き裂かれた夫婦愛に焦点を合わせていたが、その裏には戦争事態への悲惨さや、不随して起こる惨劇の実情を訴えていたのだと思いたい。繰り返してはならないはずなのに。