序文・神仏習合
堀口尚次
秋葉(あきば)神社は、日本全国に点在する神社である。神社本庁傘下だけで約400社あるが、一説には1000社を超えるデータもある。神社以外にも秋葉山(さん)として祠や寺院の中で祀られている場合もあるが、ほとんどの祭神は神仏習合の火防(ひよけ)・火伏(ひぶ)せの神として広く信仰された秋葉大権現〈現在の遠州秋葉山秋葉山本宮秋葉神社と越後栃尾秋葉山の秋葉三尺坊大権現別当常安寺の二大霊山を起源とする〉である。一般に秋葉大権現信仰は徳川綱吉の治世以降に全国に広まったとされているが、実際には各地の古くからの神仏信仰や火災・火除けに関する伝説と同化してしまうことが多く、その起源が定かであるものは少ない。祠の場合は火伏せの神でもあるため、燃えにくい石造りの祠などが見かけられる。小さな祠であることが多く、一つの町内に何箇所も設置されている場合もある。
総本山は二カ所あり、秋葉山本宮秋葉神社-静岡県浜松市天竜区春野領家にある神社で、秋葉大権現の起源。日本二社〈総本廟〉秋葉大権現の「今の根元」といわれる。秋葉三尺坊大権現-新潟県長岡市谷内二丁目にある神社で、日本二社〈総本廟〉秋葉大権現の起源。「古来の根元」といわれる。
また、可睡斎(かすいさい)は、静岡県袋井市久能にある曹洞宗の仏教寺院。山号は萬松山(ばんしょうざん)。本尊は聖観音(しょうかんのん)。寺紋は丸に三つの葵〈徳川家と同じ〉である。江戸時代には「東海大僧録」として三河国、遠江国、駿河国、伊豆国の曹洞宗寺院を支配下に収め、関三刹(かんさんさつ)〈江戸時代に関東における曹洞宗の宗政を司った3箇所の寺院〉と同等の権威を持った。遠州三山の一つ。明治6年、秋葉山〈静岡県浜松市〉の神仏分離に伴い三尺坊大権現が遷座(さんざ)〈神仏の座をほかへ移すこと〉され火防災除の寺ともなった。修行道場として僧堂を設置している。
因みに、「秋葉」の名の由来は、大同年間に時の嵯峨天皇から賜った御製(ぎょせい)の中に「ゆく雲のいるべの空や遠つあふみ秋葉の山に色つく見えし」とあったことから秋葉山と呼ばれるようになったと社伝〈修験の伝承〉に謳(うた)われる一方「行基が秋に開山したことによる」、「焼畑に由来する」、「蝦蟇(がま)の背に秋葉の文字が浮かび上がった」などの異説もある。
こうして秋葉信仰は、古来より火防及び火そのものに対する信仰が根本であり、町内で火災鎮護を祈る地域や消防団、火を扱う職業の参拝が多い。