序文・ナウマンが発見
堀口尚次
ナウマンゾウは、約1万5000年前までの日本列島に生息していたゾウである。後期更新世の日本列島に棲息した長鼻目(ちょうびもく)は本種とケナガマンモスのみであり、ヤベオオツノジカやハナイズミモリウシと共に後期更新世の日本列島に分布した大型陸棲哺乳類でもとくに有名な種である。
肩高2.5m〜3mで、現生のアジアゾウよりもやや小型である。一方で、氷河の寒冷な気候に適応するために皮下脂肪が発達し、全身は体毛で覆われていたと考えられている。
牙〈門歯=いわゆる前歯〉が発達しており、雄では長さ約240cm、直径15cmほどに達した。この牙は小さいながらも雌にも存在し、長さ約60cm、直径は6cmほどであった。また、〈牙の〉外側から内側へのねじれの様な湾曲も特徴的である。最大の特徴として頭蓋骨上の頭頂部の隆起があり、頭部のシルエットがベレー帽を思わせるほどに突き出ていたとされている。
最初の標本は明治初期に横須賀で発見され、東京帝国大学〈現・東京大学〉地質学教室の初代教授だったドイツのお雇い外国人ハインリッヒ・エドムント・ナウマンによって研究、報告された。その後大正10年には浜名湖北岸の工事現場で牙・臼歯(きゅうし)・下顎骨(かがくこつ)〈いわゆる下あご〉の化石が発見された。
京都帝国大学理学部助教授の槇山次郎は、大正13年にそれがナルバダゾウの新亜種であるとしてこれを模試票本とし、日本の化石長鼻類研究の草分けであるナウマンに因んでElephas namadicus naumannniと命名した。これにより和名は「ナウマンゾウ」に決定した。
昭和37年から昭和40年まで長野県の野尻湖畔に位置する立(たて)が鼻(はな)遺跡〈野尻湖遺跡群〉で実施された4次にわたる発掘調査では、大量のナウマンゾウの化石が見つかった。それまでは本種は熱帯性の動物で毛を持っていないと考えられていたが、野尻湖での発掘により、やや寒冷な気候下でも生息していたことが判明した。
本種が出現したのは約34万年前とされており、寒冷期で陸橋が形成された約43 - 30万年前に日本列島への渡来があったと考えられている。ユーラシア大陸からもナウマンゾウとされる化石の発掘例があるが、日本のナウマンゾウと同種であるかどうかは今のところ不明である。