ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1276話 自然界には存在しないサラブレッド

序文・品種改良

                               堀口尚次

 

 サラブレッドとは、18世紀初頭にイギリスでアラブ馬やハンター〈狩猟に用いられたイギリス在来の品種〉等から競走用に品種改良された軽種である。

競馬以外には乗馬やポロなど多数の用途に使用される。オリンピックなどの馬術競技で活躍するサラブレッドも少数ながら存在し、アメリカ合衆国の障害飛越殿堂馬22頭のうち、サラブレッドは15頭にもおよぶ。

 語源は thorough [ 完璧な、徹底的な ] + bred [ 品種 ] で人為的に完全管理された血統を意味する。ここから「名家の出」「名門の出」の比喩としても用いられる。

 1791年以来、サラブレッドには厳格な血統登録が行われており、1頭1頭に必ず血統書が存在している。原則として、両親がサラブレッドでなければサラブレッドとは認められないが、サラブレッド系種に8代連続サラブレッドを掛け合わせたものは審査を経てサラブレッドと認められる場合がある。

 現在の全てのサラブレッドは、父系〈サイアーライン〉を遡るとゴドルフィンアラビアンバイアリータークダーレーアラビアンのいずれかにたどりつく。これらを「三大始祖」という。ただしサラブレッドは品種改良によって生み出された品種であり、三大始祖はいずれもサラブレッドではない。牝系〈母系〉も1号族・2号族・3号族…とファミリーナンバーで分類されている。

 サラブレッドは、イギリス在来のハンター種などの牝馬とアラブ牡馬を交配させ、競争の能力に長けた馬を生産しようとしたことが始まりとされている。ジェイムズ一世の時代までにはバルブ種が競馬で好成績を残していた記録が残っており、16世紀以前からアラブ馬の輸入はされていたと考えられるが、軍事的な輸出入規制や継続的な在来馬と輸入馬の交配が行われなかったことからサラブレッドという品種は確立していなかった。

 サラブレッドの生産は繁殖牡馬に種付けすることから始まる。3月から6月までが馬の発情期間であり、その間に適当な種牡馬を種付けするのだが、種付け料は種牡馬によって違い、数千万円にも上る人気種牡馬から、事実上無料の馬もいる。なお人工授精など人為的な方法による受精は認められておらず、自然交配でなければサラブレッドとして認められない。