ホリショウのあれこれ文筆庫

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第168話 軍歌・抜刀隊の感慨

序文・敵の大将は西郷隆盛

                               堀口尚次

 

 西南戦争最大の激戦となった田原坂(たばるざか)の戦いにおいて、帝国陸軍〈政府軍・官軍〉側として予想外の形での戦闘、すなわち白兵戦(はくへいせん)〈刀剣などの近接戦闘用の武器を用いた戦闘〉が発生した。数に勝る帝国陸軍において人員の大多数を占める鎮台(ちんだい)〈地方駐屯の軍隊〉の兵は、主に徴兵令によって徴兵された平民で構成されており〈将校や下士官は士族が多数を占めるがあくまで兵を統率する指揮官であり、人員数も少ない〉、そのため西郷軍に対抗するため、「別働第三旅団」の隊号を持ち、帝国陸軍の隷下(れいか)〈従属している人〉として投入されており士族出身者が多かった警視隊の中から、特に剣術に秀でた者を選抜し、抜刀(ばっとう)隊が臨時編成されて戦闘を行なった。軍歌「抜刀隊」は、この抜刀隊の活躍を歌ったものである。外山正一(社会学者・教育者)の歌詞に、フランスのお雇い外国人シャルル・ルルーが曲をつけたもので、最初期の軍歌であり本格的西洋音楽であったことから、後の様々な楽曲に影響を与えた。また完成度が高く庶民の間でも広く愛唱され、 西洋のメロディによる日本で最初の流行歌となった。楽曲は転調を多用しており、当時の日本人の感覚からすると、やや歌いづらいものとされた。西洋音楽が珍しかった時代、小学校初等科音楽として使用されている。歌詞は、6番まであるが、今回は1番のみを紹介する。

 

我(われ)は官軍敵(わがてき)は 天地容(い)れざる朝敵ぞ
敵の大将たる者は 古今無双(ここんむそう)の英雄で→大将とは西郷隆盛のこと
之に従ふ兵(つわもの)は共に慓悍(ひょうかん)决死の士(し)→剽悍とはすばやい上に荒々しく強いこと
鬼神(きじん)に恥ぬ勇あるも 天の許さぬ反逆を
起(おこせ)し者は昔より 栄えし例(ためし)あらざるぞ
敵の亡ぶるそれ迄は 進めや進め諸共に
玉ちる剣(つるぎ)拔き連れて 死ぬる覚悟で進むべし

 

まずは自分達が官軍であること、敵が朝敵であることを示している。しかしながら、敵の総大将・西郷隆盛は、昔から今に至るまで、敵(かな)うものが存在しない英雄であると、尊敬の念すら感じられる。そんな状況下にありながら、自分達を奮(ふる)い立たせるかの如く、反逆者を許さないという覚悟が伺える。感慨深い。

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