ホリショウのあれこれ文筆庫

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第373話 聞け万国の労働者

序文・労働者諸君!

                               堀口尚次

 

聞け万国の労働者 とどろきわたるメーデー
示威(しい)者に起る足どりと 未来をつぐる鬨(とき)の声
汝の部署を放棄せよ 汝の価値に目ざむべし
全一日の休業は 社会の虚偽をうつものぞ
永き搾取に悩みたる 無産の民よ決起せよ
今や二十四時間の 階級戦は来たりたり
起て労働者ふるい起て 奪いさられし生産を
正義の手もととりかえせ 彼らの力何ものぞ
われらが歩武の先頭に 掲げられたる自由旗を
守れメーデー労働者 守れメーデー労働者

 

 これはメーデー歌(か)という日本の労働歌。歌い出しから「聞け万国の労働者」とも呼ばれる。メーデーは、5月1日に世界各地で行われる労働者の祭典。労働者が権利を要求するために行進や集会などを行い、団結の威力を示す。本来は、ヨーロッパの伝統的な祝祭である五月祭を意味する。

 労働運動とは、資本主義社会において 資本家階級からの搾取と抑圧に反抗し、労働者が団結して自らの、労働条件の改善と社会的な地位の安定や向上の確保、政治権利の獲得などを目指すために使用者に対して行う運動である。

 映画「男はつらいよ」で寅さんが、とらやの裏の印刷工場で働く若者たちに向かって「労働者諸君!」と呼びかける場面がよく出てくるが、メーデー歌を歌いながら裏の工場へ入っていく場面もある。

 的屋(てきや)が生業(なりわい)の寅さんは、労働者の定義である「自己の労働力を提供し、その対価としての賃金や給料によって生活する者」には当てはまらず、個人事業主に当たる。しかし労働者とは資本家〈雇い主〉から見た場合の呼称であり、とらやの裏の印刷工場の若者たちは、個人事業主の寅さんから「労働者諸君」と呼ばれる筋合いはないのだ。

 それにしても、このような歌が生まれた背景には、資本家と労働者の対立構造があり、資本家の搾取から身を守るための労働運動に他ならないと感じた。労働組合が形骸化している昨今、違う形での労働運動が必要なのかも知れない。