ホリショウのあれこれ文筆庫

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第39話 男子の本懐を遂げた濱口雄幸首相

序文・20年ほど前に、城山三郎の「男子の本懐」をTVドラマ化したものを観た。主人公の濱口首相について筆をとりました。

                               堀口尚次

 

 ライオン宰相(さいしょう)と呼ばれた濱口(はまぐち)雄幸(おさち)首相は、東京駅で右翼青年の凶弾に倒れた。

高知県出身で明治3年生れ、旧大蔵省に入省し専売局長官・逓信(ていしん)次官・大蔵次官などを歴任した後に、立憲同志会に入党後衆議院議員に当選し代議士となる。大蔵大臣・内務大臣を歴任した後に、立憲民政党の初代総裁となる。

 内閣総理大臣になると、井上準之助・前日銀総裁を蔵相に起用して金(きん)解禁や緊縮政策を断行した。金解禁とは金本位制(一国の貨幣価値を金に裏付けられた形で金額を表すもの)に復帰することであった。この政策は各方面から批判を受け、実際に不況が増した。しかし、長期的な展望から濱口は、必要不可欠な政策として断行した。

 更に、野党や海軍の反対を押し切り、ロンドン海軍軍縮条約(列強海軍の補助艦保有量の制限)を締結した。これらの濱口内閣の政策は、激しい攻撃に晒(さら)される事となる。こうした中、濱口は右翼の凶弾に倒れるが、犯人は「陛下の統帥(とうすい)権を犯したから」と犯行の動機を語った。統帥権とは大日本帝国憲法下の日本における軍隊を指揮監督する最高の権限(最高指揮権)の事で、これを持っているのが天皇陛下であるが、実際には、天皇が軍事の専門家である参謀総長(陸軍)・軍令部総長(海軍)に委託した戦略の決定や、軍事作戦の立案指揮命令をする軍令権のことさす。

 濱口内閣が海軍軍令部の意に反して軍縮条約を締結したのは、統帥権の独立を犯したもの「統帥権干犯(かんぱん)」として攻撃されたが、濱口は条約の批准権(ひじゅんけん)を持つ昭和天皇に裁可を得ている。

 なお、統帥権独立の考えが生まれたのは、指導者・政治家が統帥権武力行使=軍隊を動かす権限)を握ると、幕府政治(江戸幕府の将軍は統帥権があった)が再興される可能性や、政党政治で軍が党利党略に利用される可能性などを恐れた事による。

 料亭政治や根回しを嫌い、謹厳(きんげん)実直(じっちょく)な人柄で知られた濱口は、凶弾に倒れた際に「男子の本懐だ」と言ったという。ちなみに、私の叔父は堀口雄幸(ゆうこう)というが、濱口雄幸(おさち)から付けたようだ。

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