ホリショウのあれこれ文筆庫

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第280話 庚申信仰

序文・日本の民間信仰として発展

                               堀口尚次

 

 現在までに伝わる庚申(こうしん)信仰とは、中国道教の説く「三尸(さんし)説」をもとに、仏教、特に密教神道修験道・呪術(じゅじゅつ)的な医学や、日本の民間のさまざまな信仰や習俗などが複雑に絡み合った複合信仰である

 庚申〈かのえさる〉とは、干支(えと)、すなわち十干(じっかん)・十二支(じゅうにし)の60通りある組み合わせのうちの一つである。陰陽五行説では、十干の庚は陽の金、十二支の申は陽の金で、比和(わひ)〈同気が重なる〉とされている。干支であるので、年〈西暦年を60で割り切れる年〉を始め、月〈西暦年の下1桁が3・8(十干が癸・戊)の年の7月〉、さらに日〈60日ごと〉がそれぞれに相当する。庚申の年・日は金気が天地に充満して、人の心が冷酷になりやすいとされた。

 この庚申の日に禁忌(きんき)行事を中心とする信仰があり、日本には古く平安時代に移入された。

 庚申信仰では、青面金剛(しょうめんこんごう)と呼ばれる独特の神体を本尊とするが、これはインドのヴィシュヌ神が転化したものではないかといわれている。また馬頭観音〈インドのハヤグリーヴァ〉との関連性も見られるという説もある。

 庚申信仰は、神道猿田彦神とも結びついているが、これは「猿」の字が「庚申」の「申」に通じたことと、猿田彦が塞(さい)の神とも同一視され、これを「幸神」と書いて「こうしん」とも読み得たことが原因になっているという。

 道教では、人間の体内には三尸という3種類の悪い虫が棲(す)み、人の睡眠中にその人の悪事をすべて天帝(てんてい)〈中国の天上の最高神〉に報告に行くという。 そのため、三尸が活動するとされる庚申の日〈60日に一度〉の夜は、眠ってはならないとされ、庚申の日の夜は人々が集まって、徹夜で過ごすという「庚申待(こうしんまち)」の風習があった。

 庚申待は平安貴族の間に始まり、近世に入ってからは、近隣の庚申講の人々が集まって夜通し酒宴を行うという風習が民間にも広まった。

 因(ちな)みに私個人の感想だが、「青面金剛」は一見すると「不動明王」に似ているが、まったく別物である。インド由来の仏教尊格ではなく、中国の道教思想に由来し、日本の民間信仰である庚申信仰の中で独自に発展した尊格である。

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青面金剛