ホリショウのあれこれ文筆庫

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第731話 不許葷酒入山門

序文・禅宗寺院にあり

                               堀口尚次

 

 禁葷食(きんくんしょく)は、仏教の思想に基づく菜食の一種。精進料理では避けるべきと考えられている食材が大きく分けて2つあり、1つは三厭(さんえん)と呼ばれる動物性の食材、もう1つは五葷(ごくん)と呼ばれるネギ属などに分類される野菜である。五葷の扱いは時代や地域によって異なる。

 大乗仏教道教では、殺生を禁ずる目的から、三厭と呼ばれる獣・魚・鳥の動物性の食品を食べることを禁じられた。また、「葷」と呼ばれる臭いの強い野菜類を食べることもさけられた。多くの場合、主にネギ属の植物であるネギ、ラッキョウ、ニンニク、タマネギ、ニラなどを避けるのが特徴である。ネギ科ネギ属の植物は、硫化アリルを成分として多く持っており、これが臭いの元となっている。『説文解字』は「葷」を「臭菜也。从艸軍声」〈臭い野菜。部首は草冠で音は軍〉と説明している通り、本来はネギ属の植物を指していたが、なまぐさと訓読みするように、現在の中国語では主に「素(そ)」の対義語として、動物性の食品を指すように意味が変化している。

 禅宗などの寺院に行くと、「不許葷酒入山門〈クンシュサンモンニイルヲユルサズの漢文〉」あるいは「不許葷肉入山門」などと刻んだ石碑が建っていることが多い。これは「葷酒(葷肉)の山門に入るを許さず」と読み、肉や生臭い野菜を食べたりを飲んだりした者は、修行の場に相応しくないので立ち入りを禁ずるという意味である

 禁葷食に含められる植物は、ニンニク、タマネギ、ネギ、ニラ、ラッキョウ、『楞厳経』では「大蒜〈ニンニク〉、小蒜〈ラッキョウ〉、興渠〈アギ〉、慈葱〈エシャロット〉、茖葱〈ヂョウジャニンニク〉」の五種が挙げられており、『梵網経』では「五辛」と称して「葱〈ネギ〉、薤〈ラッキョウ〉、韮〈ニラ〉、蒜〈ニンニク〉、興渠〈アギ:アサフェティダ〉」の5種が、『楞伽経』でも「五辛」と称して「大蒜〈ニンニク〉、茖葱〈ギョウジャニンニク〉、慈葱〈エシャロット〉、蘭葱〈ニラ〉、興渠〈アギ〉」を挙げている。これらの内、アギのみがセリ科の植物で、他は全てネギ科ネギ属の植物である。

三厭は、獣・鳥・魚介を指し、動物性のものすべてを指す。