序文・相手を非難する
堀口尚次
弾劾(だんがい)とは、身分保障された官職にある者を、義務違反や非行などの事由で、議会の訴追によって罷免し、処罰する手続き。弾劾主義。これにちなみ相手を非難する表現にもなっている。日本の弾劾制度は以下の2種類があり、いずれも弾劾裁判の形式を採っている。
日本国憲法第64条に基づき裁判官弾劾法に定める弾劾裁判 - 裁判官に対して裁判官弾劾裁判所が行う。
国家公務員法第9条に定める弾劾裁判 - 人事院を構成する人事官に対して最高裁判所が行う。
国会議員に対する弾劾制度は無い。日本国憲法第58条第2項に「両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする」と定められている。
裁判官に対する弾劾裁判は、20名の国会議員〈衆議院・参議院の各院から10名ずつ〉が委員となって構成する裁判官訴追委員会の訴追を受けて、14名の国会議員〈衆参各院から7名ずつ〉が裁判員となって構成する裁判官弾劾裁判所が行う。
裁判官訴追委員会、裁判官弾劾裁判所とも、国会議員によって構成され、国会に属する国家機関であるが、いずれの機関も、国会および衆参両院から独立して職務を行うとされている。
裁判官弾劾に関して衆議院の優越は認められていない。
人事官に対する弾劾裁判は、国会の訴追を受けて、最高裁判所が行う。裁判の手続きは、国家公務員法9条の定めにより、最高裁判所の人事官弾劾裁判手続規則に従ってなされる。人事官に弾劾裁判制度が設けられたのは、人事官3人をもって構成される人事院が、国家公務員の労働基本権を制限する代償的措置として設けられ、公務員の人事行政を公正に行うため、内閣の所轄の下にありながらも〈国家公務員法第3条第1項〉、これに対して強固な自律性を認められている点に由来している。人事院の特色から、人事官は、職務遂行に高度の公正さが要求され、高度の身分保障が必要とされることから、その罷免は内閣とは別の機関である国会および裁判所による弾劾手続きを採ることとされた。