序文・義務ではないがやるべきこと
堀口尚次
国旗及び国歌に関する法律は、国旗・国歌を定める日本の法律。所管官庁は内閣府。1999年(平成11年)8月13日に公布、即日施行された。国旗を「日章旗」、国歌を「君が代」と規定した。なお、日本で法律で国旗や国歌について規定したのは本法が最初である。
1996年(平成8年)頃から、公立学校の教育現場において、当時の文部省の指導で、日章旗(日の丸)の掲揚と同時に、君が代の斉唱が事実上、義務づけられるようになった。しかし、日教組などの反対派は「日本国憲法第19条が定める思想・良心の自由に反する」と主張して、社会問題となった。
・埼玉県立所沢高等学校では、卒業式・入学式での日章旗と君が代の扱いを巡る問題が生じ、1996年(平成8年)より数年にかけて、教育現場及び文部省を取り巻く関係者に議論を呼んだ。
・1999年(平成11年)には、広島県立世羅高等学校校長が卒業式前日に自殺した。君が代斉唱や日章旗掲揚に反対する教職員と文部省の通達との板挟みになっていたからである。
これらを1つのきっかけとして法制化が進み、本法が成立した。
当時の内閣総理大臣小渕恵三は、1999年(平成11年)6月29日の衆議院本会議において、日本共産党の志位和夫の質問に対し以下の通り答弁した。
『学校におきまして、学習指導要領に基づき、国旗・国歌について児童生徒を指導すべき責務を負っており、学校におけるこのような国旗・国歌の指導は、国民として必要な基礎的、基本的な内容を身につけることを目的として行われておるものでありまして、子供たちの良心の自由を制約しようというものでないと考えております。国旗及び国歌の強制についてお尋ねがありましたが、政府といたしましては、国旗・国歌の法制化に当たり、国旗の掲揚に関し義務づけなどを行うことは考えておりません。したがって、現行の運用に変更が生ずることにはならないと考えております。』
一方、当時の文部省教育助成局長だった矢野重典は1999年(平成11年)8月2日の参議院国旗・国歌特別委員会で、公立学校での日章旗掲揚や君が代斉唱の指導について「教職員が国旗・国歌の指導に矛盾を感じ、思想・良心の自由を理由に指導を拒否することまでは保障されていない。公務員の身分を持つ以上、適切に執行する必要がある」と表明している。
国会答弁ではよく、政治家と官僚の答弁に食違いが生じる。『適切に執行する必要があるが、義務づけはしない』という玉虫色の政府答弁になるからだ。