ホリショウのあれこれ文筆庫

歴史その他、気になった案件を綴ってみました。

第1535話 私人逮捕

序文・潜む危険性

                               堀口尚次

 

 私人逮捕とは、一般人による逮捕のこと。常人逮捕と言うこともある。日本法では現行犯を逮捕する時のみ私人逮捕が認められている。現行犯人の逮捕は、検察官や司法警察職員に限らず何人でも〈一般人でも誰でも〉逮捕状がなくても行うことができるとされている〈刑事訴訟法213条〉。これは、現行犯人が現に犯行を行っているか行い終わったところであるため、逮捕して身柄を確保する必要が高い上に、誤認逮捕のおそれがないためである。

 私人逮捕を行うには次の2つの条件を満たす必要がある。①犯人が現行犯人であること〈準現行犯人を含む〉〈刑事訴訟法212条〉②現行犯人であっても、次の罰則のいずれかに該当するなら、犯人の住居、氏名が明らかでなく、又は犯人が逃亡するおそれがある場合〈刑事訴訟法217条〉 2つ目の条件に該当する罪の例として、刑法では、過失傷害罪、過失建造物等浸害罪が挙げられる。軽犯罪法は、全ての罪について拘留又は科料を罰則としている。

 私人が逮捕を行った場合は、直ちに地方検察庁区検察庁の検察官、又は司法警察職員司法警察員と司法巡査〉に引き渡さなければならない〈刑事訴訟法214条〉。なお、司法巡査〈警察官だと概ね巡査・巡査長〉が私人から犯人の引き渡しを受けた場合は、司法警察員〈警察官だと概ね巡査部長以上〉に引致しなければならない〈刑事訴訟法215条1項〉。また、司法巡査は、逮捕した私人から、その者の氏名・住居、逮捕事由などを聞き取らなければならず、必要があれば、逮捕した者に警察署等官公署への同行を求めることができる〈刑事訴訟法215条2項〉。

 司法警察職員、特に警察官が犯人等を逮捕する場合において、犯人等が抵抗や逃走した場合には、状況とその者の罪状に応じて警察官職務執行法に基づき武器の使用を含めた制圧手段を取ることが認められている。これに対して私人が逮捕行為を許容されるのは、犯人が明らかに前述の現行犯〈準現行犯を含む〉に該当し、なおかつ現行犯逮捕に関する要件を満たしている時に限られる。その上で犯人が抵抗や逃走した場合に法律上認められる実力の行使であるが、最高裁判例では「現行犯人から抵抗を受けたときは、逮捕をしようとする者は、警察官であると私人であるとをとわず、その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許される〈刑法35条〉」としている。

 犯人からどのような抵抗を受けたか、犯人に対して行った有形力〈物理的攻撃〉の程度、犯人が負った怪我の程度、などの事情を総合的に判断して違法かどうかが判断される。「〈現行〉犯人を逃さない」という正義感から私人逮捕でやりすぎてしまった場合、現行犯人が悪いわけであるため、警察への協力として、実際には捜査機関から暴行罪や傷害罪で検挙されることはほとんどない。 

 一方で他人の行為を犯罪と決めつけて拘束する動画のYoutubeへの投稿が問題化しており、私人逮捕が許容される状況は限定的で行き過ぎた行為となれば犯罪が成立する可能性もある。 

 平成19年には、埼玉県内のゲームカード店で商品を万引きした男が店員二人に取り押さえられ、その際に抵抗した。そのため、店員らが首などを押さえて取り押さえた上で腹をけるなどの暴行を加えた。万引き男は窒息による低酸素脳症で重体となり、一週間後に死亡した。万引き男も「容疑者死亡」のまま書類送検とはなったものの、店員らは傷害致死罪〈法定刑は3年以上の有期懲役〉で逮捕された。最終的には、さいたま地方裁判所の刑事裁判にて、正当防衛とは認められなかったものの、傷害致死罪の有罪としては最も軽い「執行猶予付きの有罪判決」とし、双方控訴しなかったために確定した。判決内容としては、万引きを咎められ拘束を受けた場合に抵抗したという事実と、羽交い締めにして意識不明にさせ結果死亡させたという事実との間において、正当防衛における相当性と武器対等の原則を欠き、前述最高裁判例の「社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力」を越えるものである。

 また、盗犯等防止法に関しても「犯人を殺傷」が許されるのは、「盗犯を防止又は盗贓(とうぞう)を取還せん」として「自己又は他人の生命、身体又は貞操に対する現在の危険を排除する為」であり、結局店員の場合においては、犯人が積極的に店員に暴行を働き店員の生命又は身体を危険ならしめようとしていたのであれば別段、私人逮捕による制圧時に対して消極的に抵抗したに過ぎず、たとえ、その消極的抵抗が違法なものであったとしても、「現在の危険」は商品に対する損害と、私人逮捕による制圧時に抵抗されたという2点しか存在していなかったのであり、総合的に見て相当性を欠く行為であると言わざるを得ず、結果として店員の制圧行為により致死を招いた結果は罪責を免れない〈盗犯等防止法は正当防衛の相当性の要件を緩和する規定であるが、これは無制限に緩和する趣旨ではない〉。