序文・浄土真宗発展の歴史
堀口尚次
本願寺は、寺院の名称である。各地に同名の寺院があるが、一般には本願寺系の浄土真宗〈真宗〉各派の本山である「本願寺」を指すことが多い。浄土真宗における寺号の由来は、13世紀に親鸞の廟堂に対して亀山天皇より下賜された「久遠実成阿弥陀本願寺」であるとされる。16世紀末期に東西に分裂し、東側は20世紀後期に発生したお東騒動の影響でさらに分裂した。
弘長2年11月28日、親鸞は京都の押小路南、万里小路東の「善法院」において入滅する。享年90。後に、覚如によって「宗祖」〈「開祖」〉に定められる。翌29日午後8時に葬送。下野国高田の顕智、遠江国池田の専信なども上洛し参列。東山鳥辺野の南、「延仁寺」で荼毘にふす。翌30日拾骨。鳥辺野の北「大谷」に墓所を築き納骨する。
文永9年、親鸞の弟子や東国〈関東〉の門徒の協力を得た覚信尼〈親鸞の末娘〉により、親鸞の墓所を「大谷」の地より「吉水の北の辺」に改葬し「大谷廟堂」を建立する。応長2年、覚如は「大谷影堂」の寺院化を試み、「専修寺」の額を掲げた。しかし、比叡山延暦寺の激しい抗議により撤去を余儀なくされた。『存覚一期記』によると、高田門徒の真仏上人の門弟である法智がこの「専修寺」の額を下野国にある高田の如来堂に持ち帰ったという。後に如来堂は専修寺に名称を改めている。
元亨元年、覚如が再度寺院化を試み、「本願寺」と号し成立する。これより後、本願寺教団は移転時に「御真影」を安置している寺を「本願寺」と呼称するようになる。〈便宜上、「大谷本願寺」と呼称される場合もある。〉「本願寺」の寺号は、13世紀に親鸞の廟堂に対して亀山天皇より下賜された「久遠実成阿弥陀本願寺」が由来であるとされる。寺院化にともなって、覚如はそれまで影堂〈廟堂〉に掛けられていた帰命尽十方無碍光如来の十字名号を本尊とするのではなく、新たに木造の阿弥陀如来立像を本尊にしようとしたが、高田門徒の反対にあい、十字名号が本尊とされた。
慶長3年8月18日、秀吉歿(ぼつ)。関ヶ原の戦い後、かねてから家康によしみを通じていた教如は家康にさらに接近する。慶長7年、後陽成天皇の勅許を背景に家康から、「本願寺」のすぐ東の烏丸六条に四町四方の寺領が寄進され、教如は七条堀川の本願寺の一角にあった隠居所から堂舎を移しここを本拠とする。
「本願寺の分立」により本願寺教団も、「准如を十二世宗主とする本願寺教団」〈現在の浄土真宗本願寺派〉と、「教如を十二代宗主とする本願寺教団」〈現在の真宗大谷派〉とに分裂することになる。ただし教如の身分は死ぬまで公式には「本願寺隠居」であって必ずしも本願寺が分立したとは言い切れない。つまり形の上では七条堀川の本願寺の境内の一角に構えていた教如の隠居所〈本願寺境内の三分の一を占め阿弥陀堂や御影堂もあった〉を、六条烏丸に移させたにすぎない。東本願寺が正式に一派をなすのは次の宣如のときからである。慶長8年、上野厩橋〈群馬県前橋市〉の妙安寺より「親鸞上人木像」を迎え、本願寺〈東本願寺〉が開かれる。七条堀川の本願寺の東にあるため、後に「東本願寺」と通称されるようになり、准如が継承した七条堀川の本願寺は、「西本願寺」と通称されるようになる。
一説によると、幕府は、准如が関ヶ原の戦いに際して西軍側についたため准如に代えて教如を宗主に就けようとしたが、教如自身がこれを受けなかった。
この時、本多正信が、「本願寺は、現実には表方〈准如派〉と裏方〈教如派〉に分かれているのだから無理に一本化する必要はない」との意見を述べたため教如への継職を止め、別に寺地を与えることに決したという。正信はさらに「天下ノ御為ニモヨロシカルベク存じ奉る」と続けているから〈「宇野新蔵覚書」「事書」〉、そこに幕府の狙い・つまり本願寺を分立させて教団の力を削ぐという意図が隠されていたことが読み取れる。現在の真宗大谷派は、この時の経緯について、「教如は法主を退隠してからも各地の門徒へ名号本尊や消息〈手紙〉の配布といった法主としての活動を続けており、本願寺教団は関ヶ原の戦いよりも前から准如を法主とするグループと教如を法主とするグループに分裂していた。徳川家康の寺領寄進は本願寺を分裂させるためというより、元々分裂状態にあった本願寺教団の現状を追認したに過ぎない」という見解を示している。
東西本願寺の分立が後世に与えた影響については、「戦国時代には大名に匹敵する勢力を誇った本願寺は分裂し、弱体化を余儀なくされた」という見方も存在するが、前述の通り本願寺の武装解除も顕如・准如派と教如派の対立も信長・秀吉存命の頃から始まっており、また江戸時代に同一宗派内の本山と脇門跡という関係だった西本願寺と興正寺が、寺格を巡って長らく対立して幕府の介入を招いたことを鑑みれば、教如派が平和的に公然と独立を果たしたことは、むしろ両本願寺の宗政を安定させた可能性も否定出来ない。
